少し前の事になるが、車椅子で来店された女性のお客さんがおられた。健常者の方との2人連れだった。コーヒーを飲んで少したった頃、健常者の方の女性が「以前男性で車椅子で来店した人を覚えていませんか?」と尋ねられた。どういう意図での質問なのかが呑み込めないまま曖昧に「そう言えばいらっしゃった様にも思いますね」と答えると、「私の主人なんです。」と今度は車椅子の女性が答えられた。「このお店がとても気に入っていて、ちょくちょく寄らせてもらっていた様なので一度私もと思い来ました。」との事。「ご主人はお元気ですか?」と尋ねると「実は先月病気で亡くなりまして。」と全く予期せぬ答えが帰って来た。
言葉に詰まる。そして一挙にその車椅子の男性の事が思い出された。そう、初めての来店の時、段差のある店の入り口に車椅子が入れる様、居合わせた常連の方が介助して下さった。車椅子の男性は慣れた動作で店の椅子に座りなおし、静かに音楽を聴きながらコーヒーを飲み帰って行かれた。その後も数回来られた様に記憶する。
障害者にとって色々な病気が併発する事は希な事ではない。詳しい病名は尋ねなかったが、もしかして最後に来られた時などはかなり悪い体調の中での来店だったのかも知れない。そんな事を思い、そして彼がこの店を気に入って下さっていたという事、そしてその奥様が思い出の場所として来店下さった事を思うと涙が溢れてきた。
出町柳は京阪の終点の駅だ。「とりあえず終点の駅まで行ってから何処に行くかを考えよう」と行き当たりバッタリの日帰り旅行で来られる方も案外多い。地図を片手に何処がお勧めかとアドバイスを求められる事も多いのだが、長年京都に住みながらあまり神社仏閣名所を知らない。
「お寺の拝観料も数行けばバカにならないしねー、その点神社はタダやし下賀茂神社と上賀茂神社で時間があれば加茂川の土手をぷらぷら歩いて神社のハシゴなんかが良いのでは?」と言うとそれもそうだと話が弾む。一頻り話し終えると「又京都に来たら寄りますね」と言って帰っていくお客さんが多い。
毎日色々な方が来店下さる。会話を交わす人もそうでない人も、ラッシュが出会いの場である事がとても嬉しい。そしてその一時をこれからも大切にしたい。
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